新聞週間に 報道の責務をかみしめる
きょう15日から新聞週間が始まる。
64回を数える歩みの中で、今年はとりわけ重い問いが投げかけられている。震災と原発事故について、新聞は読者の期待にどこまでこたえられたのか、という問いである。
新聞離れが指摘されて久しい。テレビとネットがあれば新聞はなくても構わない、といった声が相変わらず聞こえてくる。
そんな中での未曽有の災害である。新聞にとっては存在価値が試される場面になった。
<原点は伝えること>
今年の新聞協会賞を受けた中に岩手県の地元紙、岩手日報の一連の震災報道がある。全国紙が地震と津波、原発事故の様子をこれでもかと報ずる中で岩手日報は考えた。被災者がいま最も必要としている情報は何か、と。
そして取り組んだのが、避難所に身を寄せている人たちの名前の掲載だった。震災で8ページに減らした紙面の一部をさき、震災3日後から22日間にわたり、計約5万人を掲載した。
「反響は予想をはるかに超えるものだった」。取材班の代表、川村公司さんは日本新聞協会発行の「新聞研究」に書いている。
「○○という名前はないか」「この人と連絡をとりたい」といった問い合わせ。「新聞が待ち遠しかった」など感謝の気持ち…。たくさんの声が寄せられた。川村さんはあらためて、活字の力に思いを強くしたという。
宮城県石巻市の石巻日日新聞は社屋が被災する中、手書きの壁新聞を発行し続け、国際新聞編集者協会(IPI)から特別賞を受けている。
読者が知りたいことを伝えるのが新聞の仕事である。原点に立ち返る大切さを、私たちはいまあらためてかみしめている。
<現実に追い越される>
新聞は大事なことを隠しているのではないか、といった声がネットなどからは聞こえてくる。しかし新聞が政府や電力会社と一緒になって、国民の目から何事かを隠すことはあり得ない。
伝えることは新聞のDNAに刻み込まれた本能だ。知り得た事実で大事なことはすべて伝える。その点については自信をもって、ここに書いておきたいと思う。
地震、津波の報道が注目され、頼りにされた半面、原発事故については読者の採点は必ずしもよくない。例えば名古屋市で先日開いたマスコミ倫理懇談会の全国大会での議論である。「事故直後は基本的な専門知識の不足から、間違った報道が少なくなかった」といった指摘が原子力の専門家から寄せられた。
低レベル放射能についての報道も読者にとって、もどかしかった一つだろう。「○マイクロシーベルト」という数値が人体にとってどれほど危険なのか、暮らしの場面で実際のところどう対処したらいいのか、新聞は親切、丁寧な報道ができたとは言い難い。
被災地の農産物や木材を確かな根拠がないのに排除する動きも目についた。こうした風評被害の数々も、行き届かない報道と無関係でなかったかもしれない。
反省点は政府の原発政策をめぐる報道にも多い。
信濃毎日新聞の社説を例に挙げる。私たちが主張してきたことは基本的には、震災の前も後も変わらない。原発は持続可能なエネルギー源とは言えないから、いまある以上には増やさない。古くなった原発は順次閉鎖していく。そんな主張である。
ただ福島第1が事故を起こす前、政府と電力会社が進める新増設計画に対しどこまで明快に「ノー」と言うことができたかと考えると、じくじたる思いもある。結果として社説は“現実”に追い越されてしまった。
<元気の出るニュース>
〈上を向く 力をくれた 記事がある〉。今年の新聞週間の代表標語である。和歌山県の田中克則さんがつくってくれた。新聞報道を前向きにとらえてくれているのがうれしい。
町や村が根こそぎにされ多数の命が失われる中で、私たちは同時に、人々の気高い振る舞いに勇気づけられた。標語はそんな気持ちをとらえたものだろう。
信毎もなるべく元気の出るニュースを届けようと心掛けた。県北部地震に見舞われた下水内郡栄村については、村の人たちの団結力に光を当て、紹介してきた。本紙の建設標には、地震のあと助け合って再起を目指す様子を伝える投書が幾つも寄せられた。
飯田市に避難した福島県の男性からは、信州の人と自然に触れる中で「殺伐とした感情が穏やかに変わっていくのが自分でも感じられた」との投書が届いている。連帯は日本の社会に健在だ。
震災からの復興には長い年月が必要になる。原発事故の後始末には百年単位の取り組みを強いられるだろう。それでも私たちは人間への信頼を支えとして、心温まる社会を必ず再建できる。そんな取り組みを丁寧に追い続けたい。
重要度としては
ネット>新聞>>>>>>>>>>テレビ
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出版日:2010-07-13
出版社:朝日新聞出版
カテゴリー:新書
作者:志村 一隆
ページ数:232
by 通販最速検索 at 2011/10/15
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